カテゴリー: 一般診療科

  • レプトスピラ症

    レプトスピラ症は、「レプトスピラ」という細菌によって引き起こされる 人獣共通感染症(動物から人にもうつる病気)です。主に犬で多く見られますが、猫では比較的まれと言われています。重症化すると命に関わることがあるため、早期診断と治療、そして予防が非常に重要です。

     

     

    【感染経路】

    レプトスピラ菌は ネズミなどの野生動物の尿を介して環境中に広がります。
    汚染された水たまり・川・湿った草むらなどに生息し、特に 雨の多い季節や河川の多い地域で感染リスクが高まります。

     

     

    【主な感染経路】

    レプトスピラに汚染された 水や土の接触

    汚染された水を 飲む

    傷口や粘膜(口・鼻・目)からの 細菌の侵入

    感染している動物の尿との接触

    犬のお散歩中に水たまりの水を飲んだり、草むらに顔を突っ込んだりすることで感染することがあります。

     

     

    【症状】

    レプトスピラ症の症状は多様で、軽度のものから急激に悪化するものまで様々です。

     

    発熱

    元気・食欲の低下

    嘔吐・下痢

    脱水

    一見、ごく一般的な体調不良と見分けがつかないこともあります。

     

    ・進行すると…

    レプトスピラは 肝臓と腎臓を強く侵すため、以下のような重症症状が出ることがあります。

    黄疸(歯ぐきや白目が黄色くなる)

    ・尿量が減る、または増える(急性腎不全

    ・重度の脱水

    肺出血症候群(LPHS:Leptospiral Pulmonary Hemorrhage Syndrome)

    ・多臓器不全

    これらの症状が出た場合、緊急治療が必要となります。

     

     

    診断】

    レプトスピラ症の診断には 血液検査・尿検査・超音波検査などが用いられますが、確定には以下の検査が重要です。

     

    ・レプトスピラ抗体価(MAT検査)

    レプトスピラに対する抗体を測定します。
    ワクチンや感染時期の影響を受けるため、 ペア血清(2回測定して上昇を確認) が有効です。

     

    ・PCR検査

    血液や尿に含まれるレプトスピラの遺伝子を検出する検査で、早期診断に最も有用とされています。

    ※状況によっては複数検査を組み合わせて診断します。

     

     

    治療】

    レプトスピラ症は 早期治療が予後を大きく左右します。

    ・ 抗生物質

    ・ 対症療法

    適切な治療を早く始めることが命を救うポイントです。

     

     

    予防が最も大切:ワクチンで守る】

    レプトスピラ症は ワクチンで予防可能な感染症です。

     

    (ワクチンを推奨する犬)

    ・河川敷のお散歩が多い

    ・草むら・水場に入る

    ・野生動物(特にネズミ)が多い地域

    ・皮下や粘膜に傷がつきやすい

    地域によって流行株が異なることがあるため、動物病院で最適なワクチンを相談してください。

     

     

    人への感染について】

    レプトスピラ症は 人にも感染します。

    感染犬の尿にはレプトスピラが排泄されるため、家庭内で看病する際は以下を徹底する必要があります。

    ・尿や嘔吐物の取り扱いに手袋・マスクを使用

    ・排泄物の消毒(次亜塩素酸ナトリウムが有効)

    ・こまめな手洗い

    治療中の犬に触れた程度では感染リスクは低いですが、念のため対策を徹底することが大切です。

     

     

    【まとめ】

    レプトスピラ症は、自然環境に潜む細菌による危険な感染症です。

    ・発生地域では意外と身近

    ・早期診断・早期治療が命を救う

    ・ワクチン接種で予防可能

    ・人にも感染するため注意が必要

    「いつもと違う元気のなさ」「急な発熱」「黄疸」などが見られたら、早めに動物病院へご相談ください。

    だん動物病院では、地域の環境や生活スタイルに合わせた 最適なワクチン計画のご提案 や、疑わしい症状がある場合の 迅速な検査と治療 に対応しています。

     

  • 犬と猫のネギ(玉ねぎ)中毒

    【ネギ中毒とは】

    犬や猫がたまねぎやネギ類(長ネギ、ニラ、ニンニクなど)を食べることで起こる中毒のことを「たまねぎ中毒(ネギ中毒)」と呼びます。
    これらの植物には、有機チオ硫酸化合物という成分が含まれており、動物の赤血球を酸化・破壊
    してしまう性質があります。

    人間では問題ありませんが、犬や猫の赤血球はこの酸化に非常に弱いため、体内で「ハインツ小体(Heinz body)」と呼ばれる構造物が作られ、赤血球が壊れやすくなります。
    この結果、体の中で溶血性貧血(赤血球が壊れることによる貧血)が起こり、命に関わることもあります。

    この中毒は、「たまねぎを食べた量」だけでなく、「個体の体質」や「加熱の有無」にも関係します。
    つまり、少量でも体質や体格によっては命に関わることがあるのです。

     

     

    【中毒を起こす食べ物】

    犬や猫が中毒を起こすのは、たまねぎだけではありません。
    同じ成分が含まれている以下の食材にも注意が必要です。

    ・たまねぎ

    ・ネギ

    ・ニンニク

    ・ニラ

    ・シャロット など

     

    特徴的なのは、加熱調理や乾燥加工をしても毒性が残るという点です。
    つまり、炒めても、煮ても、スープに溶けても安全にはなりません。
    また、粉末スープやベビーフード、ハンバーグ・味噌汁・カレーなどの調理品でも中毒を起こします。

    さらに、猫は犬よりも感受性が高く、ごく少量の摂取でも血液学的変化を起こす可能性があります。
    一般に、体重1kgあたり5gのたまねぎで中毒が起こるとされています。

     

     

    症状】

    症状は、摂取してすぐではなく、1日〜数日後に現れるのが特徴です。
    赤血球が破壊されるスピードや個体の体質によって、症状の強さは異なります。

     

    主な症状は以下の通りです。

    ・元気がない、ぐったりしている

    ・食欲がない

    ・嘔吐、下痢

    ・頻脈(脈が速い)

    ・歯ぐきや目の結膜が白っぽい(貧血)

    ・黄疸(白目や耳の内側が黄色くなる)

    ・血尿、赤色〜褐色の尿

    ・呼吸が荒い、苦しそう

     

    貧血が進行すると、粘膜が蒼白になり、虚脱(ぐったりする)、呼吸数や心拍数の増加、黄疸、赤褐色の尿などが目立つようになります。
    重症化した場合、適切な治療を行わないと死亡することもあります

     

     

    診断】

    診断は、血液検査を行います。

     

     

    治療】

    治療は摂取量・経過時間・症状の重さによって異なります。

    ・摂取直後(数時間以内)
    動物病院で催吐処置(吐かせる)を行い、体内への吸収を防ぎます。
    活性炭の投与で毒素の吸収を抑えることもあります。

     

    ・内科的治療
    点滴治療(老廃物や毒素の排出を促します。)

    活性炭の投与(毒素の吸収を防ぎます)
    必要に応じて酸素吸入輸血を行うこともあります。
    予防】

    たまねぎ中毒は、飼い主の注意で完全に防ぐことができる中毒です。

    ・人の食べ物(特にハンバーグ・カレー・味噌汁・スープ類)は与えない

    ・たまねぎやニンニクを使った料理の残り汁も危険

    ・調理中やゴミ箱、台所に置いた食材にも注意

    ・家族全員で「ネギ類は絶対に与えない」と共有する

     

     

    まとめ】

    犬や猫のたまねぎ中毒は、身近な食材によって起こる深刻な中毒です。
    加熱しても乾燥しても毒性は消えず、少量でも危険です。
    摂取してから症状が出るまで時間がかかるため、「少し舐めただけだから大丈夫」と思わず、すぐに動物病院に相談することが大切です。

    早期の対応で、多くの子は回復します。
    「ネギ類は絶対に与えない」—この一つのルールが、大切な家族の命を守ります。

  • 猫のユリ中毒について

    美しく香りもよいユリの花ですが、猫にとっては命に関わる危険な植物です。たったの葉2枚や花びらの一部の誤飲ですら死に至らしめる可能性があり、植物全体(花粉、葉、雌しべ、花弁)もまた毒になります。

    特に春から初夏、贈り物や仏花などでユリを飾る機会が増える時期は、注意が必要です。

     

     

    【どんな植物が危険?】

    ユリ科・ユリ属に含まれる多くの花が危険です。
    代表的なものは、カサブランカ、テッポウユリ、タイガーリリー、スカシユリ、ヤマユリなど。
    花束や仏花、鉢植えに含まれていることも多く、花、葉、茎、花粉、水すべてが中毒の原因になります。
    犬では大量に食べても軽い胃腸炎程度で済むことが多いですが、猫ではほとんどが中毒症状を発症します。

     

     

    【中毒の特徴と症状】

    ユリ中毒では、**腎臓の尿細管が壊れてしまう「急性尿細管壊死」**を起こします。

     

    摂取後の経過は次のように進行します。

    ・2〜4時間以内:突然の嘔吐が見られるが、いったん落ち着く。

    ・12〜24時間後:尿が出なくなる(無尿性腎不全)。脱水も進行。

    ・2日目まで:嘔吐が続き、元気や食欲がなくなる。

    ・4〜7日目:腎臓が完全に機能しなくなり、死亡に至るケースも。

    初期症状は軽く見えても、時間が経つにつれて腎臓が壊れていくのがこの中毒の怖いところです。

     

     

    【診断】

    血液検査で腎臓の数値(クレアチニン:Cre、尿素窒素:BUNなど)が上昇します。
    ただし、これらの値が上がるまでには時間がかかるため、「ユリを食べたかもしれない」時点で受診することが重要です。

     

     

    【治療】

    ① 消化管洗浄(摂取直後)

    ユリを食べてから短時間(数時間以内)で来院した場合は、催吐処置・活性炭の投与・胃洗浄などで体内に吸収される前に排出します。

    ② 輸液療法(2〜3日間)

    無尿になる前に、早期の輸液治療を開始することが最も重要です。
    できるだけ早く(理想は24時間以内)に点滴を始めることが望ましい。

     

     

    【予後】

    ユリ中毒の予後は、どれだけ早期に対応できたが重要となります。

    早期に対応・治療を開始できれば、腎不全を防げる可能性が高いです。

    症状が進行してからでは腎臓の回復が難しく、命を落とすこともあります。

     

     

    【予防が何より大切!】

    ・猫のいる家庭では、ユリを置かないようにしましょう。。

    ・花瓶の水にも毒が含まれるため、猫が飲まないように注意。

    「少しくらいなら大丈夫」という油断が、取り返しのつかない結果を招くことがあります。

     

     

    【まとめ】

    ・猫にとってユリは極めて毒性の強い植物です。

    ・ごく微量でも急性腎不全を起こす可能性があります。

    ・摂取後48時間以内の治療が生死を分けるため、食べた可能性がある場合はすぐに動物病院へ連絡をください。

    ・ユリ科の植物を家に置かないことが最善の予防策です。