カテゴリー: 循環器科

  • 僧帽弁閉鎖不全症

    犬の心臓病の中で最も多くみられる病気が「僧帽弁閉鎖不全症(Mitral Valve Degeneration:MVDまたはMMVD)」です。特に高齢の小型犬に多く、進行性の病気であるため、早期発見と適切な治療がとても重要になります。ここでは、僧帽弁閉鎖不全症の原因、症状、診断、治療、そしてご自宅での注意点について詳しく解説します。

     

     

    【僧帽弁閉鎖不全症とは?】

    心臓は4つの部屋に分かれ、その中で左心房と左心室の間には「僧帽弁」という扉の役割をする弁が存在します。正常な心臓では、この弁がしっかり閉じることで血液が逆流しないように働きます。しかし僧帽弁閉鎖不全症では、この僧帽弁が変形したり、弁を支える腱索が伸びたり切れたりすることで、弁が完全に閉まらず、血液が左心房へ逆流してしまいます。

    この逆流が続くと、心臓に負担がかかり、徐々に心臓の拡大(心拡大)や心不全へと進行していきます。

     

     

    【好発犬種と原因】

    僧帽弁閉鎖不全症は特に以下の犬種で多く見られます。

    キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル

    ・トイ・プードル

    ・チワワ

    ・ミニチュア・ダックスフンド

    ・ポメラニアン

    ・シーズー など

    主な原因は**加齢に伴う弁の変性(退行性変化)**で、遺伝的素因も関与していると考えられています。小型犬では7〜8歳頃から増えてくる病気であり、超高齢犬では非常に一般的な心疾患です。

     

     

    【症状】

    病気の初期はほとんど症状がなく、健康診断で初めて「心雑音を指摘される」というケースが多くあります。

    進行してくると以下のような症状が見られます。

    ・咳が出る

    ・運動を嫌がる、疲れやすい(運動不耐)

    ・呼吸が早くなる、苦しそうにする

    ・寝ているときに息が荒い

    ・失神(ふらついて倒れる)

    さらに悪化すると、肺に水がたまる「肺水腫」を起こし、命に関わる状態になります。咳や呼吸困難は特に重要なサインです。

     

     

    診断】

    ・聴診

    最初の手がかりとなるのが心雑音です。僧帽弁逆流による特徴的な雑音が確認できます。

     

    ・胸部レントゲン検査

    心臓の大きさや、肺の状態(肺水腫の有無)を評価します。

     

    ・心臓の超音波検査

    僧帽弁の形態、逆流の程度、心臓の拡大度などを詳しく評価できる最も重要な検査です。

     

    ・血液検査(NT-proBNPなど)

    心臓への負担の程度を知るために利用します。

     

    これらの情報を組み合わせて、病気のステージ(ACVIM分類)を判断し、治療が必要かどうかを決めます。

     

     

    【治療】

    僧帽弁閉鎖不全症は根本的に治すことは難しい病気ですが、薬で進行を抑え、症状を改善し、寿命を大きく延ばすことができます。

     

    1、内科治療

    病期によって使用する薬は異なりますが、一般的には以下の薬が用いられます。

    ピモベンダン(心臓の収縮力を高め、負担を減らす)

    ACE阻害薬(血管を広げ心臓の負荷を軽減)

    利尿薬(肺水腫がある場合)

     

     

    2、手術(弁形成術)

    近年では、専門施設で「僧帽弁形成術」という高度な心臓手術が可能になっており、根治が期待できます。ただし費用・リスク・適応条件があるため、専門医と相談が必要です。

     

     

    3、食事・サプリメント

    低塩分食

    オメガ3脂肪酸

    ・食事(心臓サポートなど)

     

     

    【ご家庭で気をつけてほしいこと】

    僧帽弁閉鎖不全症の犬は、日常生活での細かい観察が非常に大切です。

    ・呼吸数を毎日チェック(寝ているときに1分間で40回を超えると要注意

    ・急な咳の悪化に気づく(特に水っぽい咳をした時は注意が必要です!)

    ・定期的に心臓検査を受ける

    特に呼吸数は肺水腫の早期発見に役立ち、命を救うことにつながります。