カテゴリー: 腎・泌尿器科

  • 急性腎不全

    急性腎不全(急性腎障害)とは?

    急性腎不全(AKI)は、腎臓の働きが急激に低下する状態を指します。腎臓は血液をろ過して老廃物を排泄し、体の水分や電解質バランスを保つ重要な臓器です。この腎臓の機能が短期間で低下すると、体内に老廃物や余分な水分がたまり、全身にさまざまな症状が現れます。

    急性腎不全は急に発症する病気であり、早期発見・早期治療が非常に重要です。放置すると命に関わることもあります。

     

     

    原因】

    急性腎不全の原因は大きく分けて以下の3つに分類されます。

     

    1、腎前性(血流不足による腎障害)
    腎臓自体に問題はないものの、血液の流れが不足して腎臓が正常に機能できなくなる状態です。
    (主な原因)

    ・脱水(下痢・嘔吐による水分不足)

    ・出血やショック

    ・心臓病による血流低下

     

    2、腎性(腎臓そのものの障害)
    腎臓自体の組織が損傷されて機能が低下する状態です。
    (主な原因)

    ・感染症:

      ⇨ 犬レプトスピラ症腎盂腎炎、ロッキー山紅斑熱、ボレリア菌によるライム病など

      ⇨ 猫腎盂腎炎FIPなど

    ・中毒(ユリ中毒、抗生物質や抗腫瘍薬、鎮痛薬の副作用など)

    ・免疫介在性疾患

     

    3、腎後性(尿の排泄障害による腎障害)

    尿が腎臓から体外に排泄されないことで腎臓に負担がかかる状態です。
    (主な原因)

    ・尿路結石

    ・尿道閉塞(特に雄猫に多い)

    ・腫瘍や外傷による尿路閉塞

     

     

    症状】

    ・食欲不振、元気がない

    ・嘔吐、下痢

    ・多尿または尿量減少(尿が出ない場合は緊急事態)

    ・脱水、口の乾き

    ・体重減少

    ・お腹や足のむくみ

    ・口臭(尿毒症臭)

    ・ふらつきや痙攣(重症例)

     

    特に尿が出ない、または少ない場合は腎不全が急速に進行している可能性があり、すぐに動物病院での治療が必要です。

     

     

    診断】

     

    ・血液検査

    血中尿素窒素(BUN)やクレアチニンの上昇

    電解質(カリウム、ナトリウム、リンなど)の異常 など

     

    ・尿検査

    尿比重や蛋白、血液、細胞の有無を確認

    尿中の老廃物排泄の状態を評価

     

    ・画像検査(X線・超音波)

    腎臓や尿路の構造異常、結石、腫瘍の有無を確認

    ⇨特に尿管閉塞、腎臓腫瘍の有無などを評価する必要になります

     

     

    【治療】

    急性腎不全は、原因の特定と早期対応が治療の鍵です。

    • 輸液療法

    ・水分や電解質を補い、腎臓への血流を回復させる

    ・脱水やショックが原因の場合は特に重要

     

    • 原因への対応

    ・尿路閉塞:カテーテルや手術による尿の排泄確保

    ・中毒:中毒物の除去や解毒剤投与

    ・感染症:抗生物質の投与

     

    • 対症療法

     

    急性腎不全は早期に適切な治療を行えば回復することもありますが、発症から時間が経過すると不可逆的な腎障害を残すことがあります。

     

     

    【予防のポイント】

    急性腎不全を予防するためには、以下の点に注意しましょう。

    ・水分補給をしっかり行う(特に夏場や高齢猫)

    ・尿路閉塞や中毒のリスクを避ける

    ⇨ユリ科の植物は猫にとって非常に危険のため、部屋に置かないようにする。

    ⇨尿石症のリスクのある動物には食事管理などでしっかり管理をする必要あります。

    ・定期的な健康チェック

    高齢犬・猫は血液・尿検査で腎機能を確認

    早期の異常発見が命を救う

     

     

    【まとめ】

    急性腎不全は、腎臓の機能が急速に低下する危険な病態です。特に猫では、尿路閉塞や中毒が原因となることが多く、尿の異常や元気消失が見られたらすぐに動物病院へ行くことが重要です。早期発見・早期治療によって回復する可能性がありますが、進行すると命に関わることもあります。

    愛犬・愛猫の健康を守るためには、日常的な観察と定期的な健康チェックが欠かせません。少しでも異変を感じたら、自己判断せずに動物病院で相談しましょう。

  • 尿管結石

    【尿管結石とは?】

    尿管結石(にょうかんけっせき)は、腎臓から膀胱へ尿を運ぶ細い管(尿管)に結石が詰まってしまう病気です。
    尿管は非常に細く、犬や猫では1mm前後しかありません。そのため、腎臓でできた小さな結石でも、尿管に詰まると尿の流れが止まり、腎臓に圧力がかかります。

    特に猫では両側性尿管結石が25%も存在し、そのうち10%は膀胱結石と関連しています。結石の多くはシュウ酸カルシウムでできています。

     

     

    特徴と危険性】

    両側の尿管が完全閉塞、または重度の部分閉塞になると、腎後性の高窒素血症(急性腎不全)を引き起こします。

    ・3〜6日以内に閉塞が解消されなければ、生命に関わる尿毒症に進行する可能性があります。

    ・片側の腎臓が正常に機能していれば、閉塞があっても尿毒症の症状は現れません。

    このため、尿管結石は緊急を要する病気であり、早期発見と治療が腎臓を守るカギです。

     

     

    症状】

    ・食欲が落ちる

    ・元気がない

    ・嘔吐

    ・排尿回数や排尿姿勢の変化

    ・腰やお腹を触られるのを嫌がる

    両側の尿管が詰まると、尿が全く出ず、ぐったりする、嘔吐やよだれが多くなるなど命に関わる症状が現れます。

     

     

    原因】

    尿管結石は、多くの場合、腎臓でできた結石が尿管に流れ出て詰まることで発生します。
    原因としては以下が考えられます。

    体質・遺伝:特定の犬種・猫種は結石ができやすい

    食事:ミネラルバランスの偏りや水分不足

    尿のpH:酸性・アルカリ性に偏ると結晶化しやすい

    感染や炎症:尿路感染で尿成分が変化し結石ができやすくなる

     

    診断】

    尿管結石の診断は、画像検査が中心です。

    X線検査

    多くの結石を確認できますが、種類によっては写らないこともあります。

    ⇨X線検査により、腎臓・尿管・膀胱・尿道のどの部位に結石があるのか判断します。

     

    超音波検査(エコー)

    尿管や腎臓内の尿の流れ、水腎症の有無を確認できます。

    ⇨腎盂の拡張を認める場合は、尿管閉塞を強く疑う所見となります。

     

     

    血液検査

    全身状態の把握をします。特に腎数値・電解質バランスを評価し、緊急性を評価します。

     

    ・尿検査:

    結晶や細菌の有無、pHを確認し結石の種類を推定します。

     

     

    治療】

    尿管結石は自然に出ることが難しく、早期の対応が重要です。

     

    ●内科的治療

    ごく小さい結石で尿の流れが保たれている場合に限り、点滴や利尿剤で自然排出を促すことがあります。

     

    尿の流れが悪い場合や腎機能が低下している場合は外科的治療が必要です。

    ⇨特に全身状態が悪い場合は、まずは内科治療を行い全身状態の改善を試みます。

     

    ●外科的治療(当院でも対応可能)尿管結石の位置により手術を選択します。

    当院では、結石の位置や大きさ、腎機能に合わせた手術・処置が可能ですので、緊急の場合も対応できます。

     

    ・尿管切開術:尿管を切開して結石を取り除きます。

    ・尿管ステントやSUBシステム:尿管内にチューブを設置して尿の流れを確保し、腎機能を守ります。

    尿管・膀胱吻合術

     

     

    【予後】

    尿管閉塞から早期に治療すれば腎機能回復可能

    片側尿管を1、2、4、6週間完全閉塞させた場合のGFR(腎血流量)の回復率

    1週間後:68%、2週間後:38.7%4週間後:9.8%6週間後:2%の回復率

    つまり、閉塞が長引くほど腎機能の回復が難しくなるため、早期発見と対応が非常に重要です。

     

     

    再発予防と日常管理】

    尿管結石は再発しやすいため、長期管理が大切です。

    療法食の継続:結石の再形成を防ぐ専用フード

    十分な水分摂取:ウェットフードの利用や水飲み場の増設

    定期検査:超音波・血液検査で腎臓・尿路の状態をチェック

    早期発見:食欲低下や嘔吐など小さな変化も見逃さない

     

     

    【まとめ】

    尿管結石は、緊急性が高く、放置すると腎臓にダメージが蓄積する可能性がある重大な病気です。
    「元気がない」「食欲が落ちた」「排尿の様子が変」などのサインが見られたら、すぐに動物病院で検査を受けることが重要です。

    当院では、緊急対応を含めた手術やSUBシステムによる治療が可能です。
    定期的な健康チェックと日常の観察で、愛犬・愛猫の腎臓と尿路の健康を守りましょう。

  • 膀胱結石

    【膀胱結石とは?】

    膀胱結石とは、膀胱の中に「石(結石)」ができてしまう病気です。
    尿の中には、本来であれば溶けているはずのミネラル成分(カルシウムやマグネシウムなど)が、何らかの理由で結晶化し、少しずつ固まって石のような塊になることで発生します。
    結石は、砂粒のように小さいものから、数センチほどの大きな石までさまざまです。

    膀胱は尿をためる臓器のため、結石ができると膀胱の粘膜を刺激して炎症や痛み、血尿を引き起こします。犬や猫では比較的よく見られる病気のひとつです。

     

    症状】

    膀胱結石ができても、最初のうちは症状がほとんど出ないこともあります。
    しかし、結石が大きくなったり、膀胱の壁を傷つけたりすると、次のような症状が見られるようになります。

    ・尿が少しずつしか出ない

    ・トイレに何度も行く

    ・血尿が出る(ピンク色や赤い尿)

    ・排尿のときに痛がる、鳴く

    ・トイレ以外の場所でおしっこをしてしまう

    ・元気や食欲がなくなる

     

    特にオスの場合、結石や結晶が尿道に詰まると尿がまったく出なくなることがあります。
    これは「尿閉(にょうへい)」と呼ばれ、命に関わる緊急事態です。
    排尿ができない、何度もトイレに行くのに尿が出ていない場合は、すぐに動物病院を受診してください。

     

     

    原因】

    膀胱結石の原因はいくつかあり、犬や猫の種類、食事、体質、感染などが関係しています。

    代表的な結石の種類は以下の通りです。

     

    ・ストラバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)

    ⇨尿がアルカリ性に傾くとできやすい。尿路感染が原因になることもあります。食事療法で溶解可能。

     

    ・シュウ酸カルシウム

    ⇨尿が酸性のときにできやすい。食事療法で溶解が難しい。

     

    ・尿酸アンモニウム、シスチン

    ⇨遺伝的な代謝異常が関与することが多い。

     

     

    診断】

    膀胱結石の診断には、いくつかの検査を組み合わせて行います。

    尿検査:尿のpH(酸性・アルカリ性)や結晶の有無を確認します。

    ⇨尿のph(酸性・アルカリ性)によりできやすい尿石の種類が変わります。また、一度の尿検査で判断せず、数回行うことが重要です。

     

    X線検査:多くの結石はレントゲンで確認できます。X線検査にて、結石の数・位置を確認します。

     

    超音波検査(エコー):レントゲンに写りにくい結石も確認でき、膀胱の炎症や尿の状態も分かります。

    結石の種類を正確に判断することが、今後の治療や再発予防にとても大切です。

     

     

    治療】

    膀胱結石の治療は、結石の種類・大きさ・症状の重さ によって変わります。

     

    ・食事療法

    特定の結石(特にストルバイト結石)は、療法食によって溶かすことが可能です。
    一方で、シュウ酸カルシウム結石などは食事で溶かすことができないため、再発予防を目的とした食事管理を行います。

     

    ・外科的治療

    結石が大きい、または尿道に詰まっている場合は、外科手術で膀胱を開いて石を取り出す必要があります。
    手術後は再発を防ぐため、結石の分析を行い、原因に合わせた食事や生活管理を続けることが大切です。

     

    ・内科的サポート

    抗菌薬による感染の治療や、排尿をスムーズにするための薬を併用する場合もあります。

     

     

    再発を防ぐために】

    膀胱結石は、治療後に再発しやすい病気です。
    再発予防のためには、次のようなポイントが重要です。

    療法食を継続する(自己判断で通常食に戻さない)

    十分な水分摂取(ウェットフードを取り入れる、水飲み場を増やす)

    定期的な尿検査(pHや結晶の有無をチェック)

    体重管理(肥満は結石リスクを高めます)

    これらを日常的に意識することで、再発のリスクを大きく減らすことができます。

     

    【まとめ】

    膀胱結石は、早期に発見し、正しく対処することで多くの場合は良好に管理できます。
    「最近トイレの回数が多い」「血尿が出ている」「排尿姿勢が長い」など、いつもと違う様子が見られたら、早めに動物病院で検査を受けましょう。

    愛犬・愛猫の尿の変化は、体からの大切なサインです。
    毎日の観察と定期的な健康チェックで、快適な暮らしを守ってあげましょう。

  • 犬・猫の慢性腎不全について

    犬や猫の慢性腎不全(CKD)は、腎臓の機能が徐々に低下する進行性の病気です。

    腎臓は体内の老廃物を排出し、体液バランスを調整する重要な役割を果たしていますが、この機能が損なわれると、体内に毒素が蓄積し、さまざまな健康問題を引き起こします。特に高齢の犬や猫でよく見られる病気です。
    腎不全は進行性の病気であり、生涯お付き合いしていく病気になります。


    【症状】
    慢性腎臓不全は初期段階では目立った症状が現れないことが多いですが、病気が進行すると以下のような症状が見られます:
    多飲多尿:
    水をたくさん飲んだり、尿の量が増えたりします。体重1kgに対して80-100mlの水を飲んでいると飲みすぎになります。
    (例)体重5kgの子の場合、1日400-500mlの水を飲んでいると異常所見となります。
    食欲不振:ご飯をあまり食べなくなる。(食べムラ)
    体重減少:体重が徐々に痩せてくる。
    嘔吐や下痢:胃腸の調子が悪くなる。
    被毛の艶がなくなる:毛がパサつき、元気がなく見える。
    口臭:尿毒症の進行によりアンモニアのような口臭がする。


    【診断】
    慢性腎不全の診断には、以下の検査が行われます:


    • 血液検査:腎臓パネル(BUN,Cre,P,Ca,NaKCl)
    腎臓機能の75%以上が障害された時に異常値を示します。特にCre(クレアチニン)は腎不全の進行度を評価する重要な役割を果たします。

     

    • SDMA:
    腎不全を早期に発見マーカーです。(腎臓機能の40%が障害された時に高値を示します

     

    尿検査尿比重尿タンパク量尿沈渣 などを確認します。
    尿検査は、腎臓がどの程度正常に機能しているかを知る上で欠かせない検査です。中でも 尿比重 は、腎臓が尿を濃縮・希釈する能力を反映する重要な項目です。慢性腎不全では、この濃縮力が低下するため、尿が薄くなり(尿比重が低下し)やすい のが特徴です。血液検査の異常が出るよりも早い段階で変化が見られることもあります。※腎臓障害を評価する上で一番重要な検査です!

     

    血圧:高血圧の有無をチェックします。

     

    超音波検査・X線検査:腎臓の形態や大きさをチェック。

     

     

    【腎臓のステージ分類:IRIS】

    腎不全の進行度を判断するために、国際的に「IRIS(アイリス)分類」という基準が使われています。これは血液検査での「クレアチニン」や「SDMA」の値、尿検査での「尿タンパク」、「血圧」などを組み合わせて評価します

    (犬 IRISステージ分類)

     

    (猫 IRISステージ分類)

     

     

    【治療】
    慢性腎臓病は完治が難しい病気ですが、適切な治療と管理により進行を遅らせることができます。


    1. 食事療法
    ・腎臓病専用の療法食に切り替えることで、腎臓への負担を軽減。
    ・低タンパク質・低リンのフードが推奨されます。

     

    2. 薬物療法
    ・ 高血圧をコントロールする薬や、尿毒素を減らすための薬を使用します。
    ・胃腸の症状を和らげる薬も処方されることがあります。

     

    3. 点滴治療
    ・脱水を防ぐために皮下点滴を行うことが多いです。

     

    4. 定期的な検査とモニタリング
    ・ 病状の進行を確認するために定期的な血液検査・尿検査を実施。


    【飼い主ができること】
    • 早期発見:高齢の子は定期的な健康診断を受けることが重要です。
    • 水分補給:常に新鮮な水を用意し、脱水を防ぎます。
    食事管理:獣医師の指導のもとで適切なフードを与えましょう。
    症状の観察:日々の健康状態を観察し、異変があれば早めに受診してください。


    【まとめ】
    腎不全早期発見適切な管理がポイントです。

    症状が出た頃にはすでに病気が進行していることが多いため、予防的な健康診断が特に重要です。愛犬や愛猫が健康に長生きできるよう、飼い主として注意深くケアしていきましょう。