カテゴリー: 腫瘍科

  • 猫の乳腺腫瘍

    猫の乳腺腫瘍は、猫に発生する腫瘍の中でも非常に悪性度が高い腫瘍として知られています。犬とは性質が大きく異なり、約80〜90%が悪性腫瘍(乳腺癌)とされています。

    進行が早く、転移もしやすいため、早期発見・早期手術が極めて重要な病気です。

     

     

    【症状】

    最も多い症状は、乳腺部の「しこり」です。

    猫の乳腺は胸からお腹にかけて左右に並んでいます。

    以下のような変化に注意が必要です。

    ・胸部〜腹部に小さなしこりがある
    ・短期間で急速に大きくなる
    ・複数のしこりがある
    ・表面が赤くなっている
    ・潰瘍化し出血や分泌物が出ている

    初期には痛みや体調の変化が少ないことが多いため、飼い主様が触って初めて気づくケースがほとんどです。

    しかし、猫の乳腺腫瘍は進行が早く、発見時にはすでに転移していることも少なくありません。

    転移先としては肺やリンパ節が多く、進行すると呼吸困難や元気消失がみられることがあります。

     

     

    診断】 

    診断は以下の流れで行います。

    ① 身体検査

    しこりの大きさ、数、可動性、皮膚との癒着を確認します。

    猫では小さくても悪性の可能性が高いため、サイズに関わらず慎重な評価が必要です。

     

    ② 画像検査

    ・胸部レントゲン検査:肺転移の有無を確認
    ・腹部超音波検査:他臓器の状態、リンパ節腫大の有無を確認
    ・リンパ節評価

    特に胸部評価は重要で、術前に必ず実施します。

     

    ③ 細胞診

    針で細胞を採取する検査ですが、乳腺腫瘍では確定診断が難しいこともあります。

     

    ④ 病理組織検査(確定診断

    摘出した腫瘍を専門機関で検査し、以下を評価します。

    ・良性か悪性か
    ・悪性度(グレード)
    ・脈管侵襲の有無
    ・切除断端の評価

    を詳しく調べます。

    猫では悪性である前提で治療を考えることが多いため、病理検査は予後予測において非常に重要です。

     

     

    治療】

    ■ 第一選択は外科手術

    猫の乳腺腫瘍は局所再発率が高く、単純な「しこりだけの摘出」は推奨されません。

    一般的には、

    ・片側乳腺全摘出術
    ・両側乳腺摘出術(段階的に行うことが多い)

    が選択されます。

    乳腺はリンパ管で連続しているため、広範囲切除の方が再発率を下げられるとされています。

     

    ■ 抗がん剤治療

    悪性度が高い場合やリンパ節転移がある場合、補助的に抗がん剤治療を検討することがあります。

    ただし、外科手術が治療の中心であることに変わりはありません。

     

     

    予後】

    猫の乳腺腫瘍の予後は、主に以下の因子で決まります。

    ・腫瘍の大きさ(2cmより大きい場合は、再発・転移リスク上昇)
    ・リンパ節転移の有無
    ・肺転移の有無
    ・悪性度(グレード)
    ・脈管侵襲の有無

    小さいうちに手術できた症例では、1年以上の生存が期待できることもありますが、進行例では生存期間が短くなる傾向があります。

    そのため、「小さいから様子を見る」は非常に危険です。

     

     

    予防】

    猫の乳腺腫瘍も女性ホルモンの影響を受けます。

    若齢期での避妊手術は、乳腺腫瘍の発生リスクを大幅に低減します。

    特に生後6ヶ月齢までに避妊手術を行った場合、発生リスクは非常に低くなると報告されています。

    将来的な腫瘍リスクを考えると、若齢での避妊手術は最も有効な予防策です。

     

    早期発見が命を守ります

    猫の乳腺腫瘍は、進行が早く悪性度が高い腫瘍です。

    だからこそ、

    ・日常的にお腹を触る習慣をつける
    ・小さなしこりでもすぐ受診する
    ・様子を見ない

    ことが非常に重要です。

    だん動物病院では、術前検査による全身評価から外科手術、病理診断、術後フォローまで一貫して対応しております。

    大切なご家族の命を守るために、早期のご相談をおすすめいたします。

  • 犬の乳腺腫瘍

    乳腺腫瘍は、犬で非常に多くみられる腫瘍のひとつです。特に未避妊の中高齢の女の子に多く発生し、胸からお腹にかけて並んでいる乳腺に「しこり」として見つかることがほとんどです。

    犬の乳腺腫瘍は「50%ルール」と言われ、50%が良性・50%が悪性と言われています。また、悪性腫瘍のうちの50%は診断時に転移があるとされています。早期発見・早期治療がとても重要な病気です。

     

     

    【症状】

    最も多い症状は「乳腺部のしこり」です。

    ・胸〜腹部にコリコリしたしこりがある
    ・しこりがだんだん大きくなっている
    ・表面が赤くなっている、ただれている
    ・出血や分泌物がある

    初期には痛みがほとんどないため、元気や食欲に変化がないことも多く、発見が遅れることがあります。

    悪性の場合は、肺やリンパ節へ転移することがあり、進行すると咳や呼吸困難、元気消失などがみられることもあります。

     

     

    診断】

    診断は以下の流れで行います。

    ① 身体検査

    しこりの大きさ、数、可動性、周囲組織との癒着の有無を確認します。

     

    ② 画像検査

    ・胸部レントゲン検査:肺転移の有無を確認
    ・腹部超音波検査:他臓器の状態・転移の有無を確認
    ・リンパ節評価

    乳腺腫瘍は肺転移が比較的多いため、胸部評価は重要です。

     

    ③ 細胞診

    針で細胞を採取する検査ですが、乳腺腫瘍では良悪性の確定が困難なことも多く、補助的検査となります。腫瘍自体が、炎症なのか、腫瘍なのか、乳腺腫瘍以外が考えられないかを判断します。

     

    ④ 病理組織検査(確定診断

    摘出した腫瘍を専門機関で検査し、以下を評価します。
    ・良性か悪性か
    ・悪性度(グレード)
    ・血管やリンパ管への浸潤の有無

    最終的な診断と予後判定にはこの病理検査が非常に重要です。

     

     

    治療】

    ■ 第一選択は外科手術

    乳腺腫瘍の治療の基本は外科的切除です。腫瘍の大きさ・数・位置によって術式が異なります。

    ・腫瘍のみ切除
    ・領域乳腺切除
    ・片側乳腺全摘出術
    ・両側乳腺摘出(段階的に実施することが多い)

    乳腺はリンパ管でつながっているため、単純にしこりだけを取るよりも、広めに切除した方が再発リスクを下げられる場合があります。

     

    ■ 避妊手術の併用

    未避妊犬では、同時に卵巣子宮摘出術を行うことがあります。

    (メリット)

    ・子宮疾患(子宮蓄膿症など)の発生予防

    ・良性の乳性腫瘤の発生を半減することを期待する。

    ※悪性腫瘍の再発率・生存率・生存期間の改善する、という報告はありません。腫瘍発生後の避妊が予後を大きく改善するかどうかは症例によります。

     

     

    ■ 抗がん剤治療

    悪性度が高い場合や転移が認められた場合には、補助的に抗がん剤治療を検討することがあります。

     

     

    予後】

    予後は以下の要素で大きく変わります。

    ・腫瘍の大きさ(3cmより大きい場合は、再発・転移リスク上昇)
    ・良性か悪性か
    ・悪性度(グレード)
    ・リンパ管・血管浸潤の有無
    ・リンパ節転移の有無
    ・肺転移の有無

     

     

    乳腺腫瘍は「様子を見ていても自然に治ることはない」病気です。小さなしこりであっても、時間の経過とともに悪性化したり、転移のリスクが高まる可能性があります。そのため、体にしこりを見つけた際には、なるべく早めの受診をおすすめいたします。

    当院では、触診によるチェックだけでなく、超音波検査などを組み合わせた総合的な評価を行い、患者様それぞれに最適な治療方針をご提案いたします。日頃からスキンシップの中で体を触る習慣をつけていただき、早期発見・早期治療につなげていきましょう。

  • 軟部組織肉腫(Soft Tissue Sarcoma:STS)

    軟部組織肉腫(STS)は、体の軟部組織(筋肉、脂肪、線維組織、神経組織、血管など)から発生する腫瘍の総称です。犬では比較的よくみられる腫瘍の一つで、猫ではワクチン部位関連肉腫(FISS)が知られています。外見上はゆっくりと大きくなる“しこり”として気づかれることが多いものの、周囲の組織へ浸潤する性質を持つため、治療には注意と計画性が必要です。

     

    特徴】

    犬では中高齢での発生が多く、発生部位は四肢、体幹部、首、背中、腹部などさまざまです。腫瘍は一般的に“被膜に包まれているように見えます”が、実際には周囲の正常組織へ腫瘍細胞が浸潤していることが多いのが特徴です。そのため、外見上は境界明瞭な腫瘤でも、ただ切り取るだけでは局所再発のリスクが高く、治療計画において最も重要な点となります。また、腫瘍の悪性度はグレード(1〜3)で分類され、高グレードほど増殖が早く、転移のリスクが高くなります。

     

     

    症状】

    多くの軟部組織肉腫は痛みなく、ゆっくりと大きくなる腫瘤として発見されます。

    ただし、関節周囲や神経に近い場所に発生した場合、跛行や痛みを引き起こすことがあります。腫瘍がかなり大きくなってから受診されるケースも多いため、日頃からスキンシップの際に体表を触って早期発見を意識することが大切です。

     

     

    診断】

    ① 細胞診

    最初に行われることが多い検査ですが、軟部組織肉腫は粘液成分が多く、細胞がとれにくいことがあります。

     

    ② 組織生検(コア生検・切開生検)

    腫瘍の確定診断とグレード評価のために重要な検査です。組織をしっかり採取することで、どのタイプの肉腫か、悪性度はどの程度かを評価できます。

     

    ③ 画像検査

    ・X線検査:肺転移の有無を確認

    ・超音波検査:腹腔内への転移、周囲構造への影響を確認

    ・CT/MRI:外科手術の計画に極めて有用。特に四肢・体幹部の浸潤範囲や切除ラインの決定に役立ちます。

    腫瘍の“どこまでが病変か”を正確に把握することが、成功率の高い手術につながります。

     

     

    治療】

    治療の第一選択は外科手術です。可能な限り大きく、広い範囲を切除することが再発防止の鍵となります。

     

    ① 外科手術(広範囲切除)

    切除マージンが不十分だと、再発率は大きく上昇します。腫瘍の局所浸潤は一見わからないため、計画性のある切除が必要です。

     

    ② 放射線治療

    ・手術で取りきれなかった場合

    ・当初から広範囲切除が困難な部位

    ・再発腫瘍

    などで補助療法として行われます。局所制御率を大きく改善する効果があります。

     

    ③ 化学療法

    軟部組織肉腫は抗がん剤への感受性が高くありません。
    ただし、高グレード(Grade 3)や転移が疑われる場合は延命効果は限定的ですが、進行を抑えることが期待できます。

     

     

    予後】

    予後は以下で大きく左右されます。

     

    ・グレード(悪性度)

    • Grade 1:低グレード → 転移率低く、手術で治るケースが多い
    • Grade 2:中間 → 再発リスクあり
    • Grade 3:高グレード → 転移率が高く、厳しい経過になることも

     

    ・外科切除の完全性

    もっとも重要な予後因子のひとつです。
    切除縁が“腫瘍陰性”である場合、再発率は非常に低くなります。

     

    ・腫瘍の大きさと発生部位

    深部、四肢末端、胸壁・腹壁などは完全切除が難しい場合があり、再発リスクが高くなります。

     

     

    飼い主さまへのメッセージ】

    軟部組織肉腫は「ゆっくり大きくなるから大丈夫」と思われがちですが、実は広がり方に特徴がある厄介な腫瘍です。外見よりも深く広がり、切除が不十分だと数ヶ月〜数年後に再発することがあります。

    ただし、早期に発見し、適切な検査と治療計画を立てることで、完治または長期的な制御が十分可能な腫瘍でもあります。

    体に触ったときに“いつもと違うしこり”を感じたら、早めに動物病院へご相談ください。だん動物病院でも、腫瘤の評価から治療計画、必要に応じた専門施設への紹介まで、飼い主さまと動物に寄り添いながらサポートいたします。

  • 肛門嚢アポクリン腺癌

    犬の肛門の両脇には「肛門嚢(こうもんのう)」と呼ばれる袋状の器官があります。ここには分泌液をつくる腺があり、マーキングや排便時の臭いづけなどに関係していると考えられています。この肛門嚢にできる代表的な悪性腫瘍のひとつが「肛門嚢アポクリン腺癌」です。

    肛門嚢アポクリン腺癌は、肛門周囲の悪性腫瘍の17%を占めます。好発犬種としては、アメリカンコッカースパニエル、ジャーマンシェパード、ダックスフンドが挙げられます。

    また、この腫瘍は転移率が高く診断時には26-89%がリンパ節転移、0-42%が遠隔転移を認めることがある悪性腫瘍になります。

     

     

    【症状】

    初期には無症状のことが多く、飼い主さまが気づいたときには腫瘍が大きくなっていることもあります。次のような症状が見られる場合は注意が必要です。

    ・肛門の片側にしこりふくらみがある

    ・排便時に痛がる便が細くなる

    ・肛門をよくなめる、気にする

    多飲多尿(お水をよく飲み、尿の量が多い)

    ・元気がない、食欲が落ちる

    この病気の特徴のひとつが「高カルシウム血症」です。約半数の症例で血中カルシウム濃度が上昇し、腎臓への負担多飲多尿などを引き起こします。

     

     

    【診断】

    肛門嚢の周囲にしこりを見つけた場合、まずは直腸検査(指での触診)で確認します。その後、より正確に診断するために以下の検査を行います。

    細胞診または組織検査:しこりの細胞を採取して、腫瘍の種類を確認します。

    血液検査:カルシウム値の上昇や腎機能のチェックを行います。

    レントゲン・超音波検査・CT検査:おなかの中のリンパ節や肺への転移がないか調べます。

     

    【臨床ステージ分類】

     

    治療】

    ・治療の基本は外科的切除です。

    腫瘍が大きくなる前に切除することが望ましい。

    ⇨根治が難しい場合でもできる限り摘出して腫瘍を減らす(減容積手術)ことで、高カルシウム血症を改善できることがあります。

     

    ・切除後には、再発や転移を防ぐ目的放射線治療(RT)抗がん剤治療を併用する場合もあります。

    また、高カルシウム血症がある場合には、点滴や薬によるカルシウム値のコントロールも重要です。

     

     

    予後】

    肛門嚢アポクリン腺癌は悪性度が高い腫瘍ですが、早期発見・早期治療を行うことで寿命を延ばせることがわかっています。

     

    中央生存期間中央値:386~960日

    1年生存率および2年生存率:それぞれ65%、29%

     

    転移が進んでいる場合でも、状況によっては症状を和らげる「緩和治療」により、生活の質を保ちながら過ごすことも可能です。

  • 犬・猫の皮膚肥満細胞腫

    【肥満細胞腫とは?】

    「肥満細胞腫(ひまんさいぼうしゅ)」は、犬や猫にできる皮膚の腫瘍のひとつです。
    肥満細胞というのは、本来は体の中でアレルギー反応や免疫に関わる細胞で、ヒスタミンなどの物質を放出する役割を持っています。この肥満細胞が腫瘍化して異常に増えてしまうと「肥満細胞腫」と呼ばれる腫瘍になります。

    犬では皮膚にできる腫瘍の中で最も多いもののひとつであり、猫でも比較的よくみられる腫瘍です。

    見た目は一見すると「ただのしこり」「できもの」に見えるため、早期に気づいて検査をすることがとても大切です。

     

     

    【症状】

    肥満細胞腫の症状はとても多様です。代表的なのは次のようなものです。

     

    ・皮膚のしこり:赤くなったり、毛が抜けたり、表面がただれて見えることもあります。

     

    ・大きさが変化する:触ると急に腫れたり小さくなったりすることがあります。これは肥満細胞からヒスタミンなどが放出され、一時的に炎症やむくみが出るためです。

     

    ・かゆみや痛み:犬や猫がしきりに舐めたり掻いたりすることもあります。

     

    ・全身症状:進行すると、嘔吐・下痢・食欲不振などの消化器症状が出ることもあります。これは腫瘍から放出される物質が胃や腸に影響を与えるためです。

     

    見た目は赤く盛り上がったドーム状になったり、脂肪腫のように丸いしこりに見えることもあります。そのため、外見だけでは「良性のしこり」か「悪性の腫瘍」かを見分けることはできません。

     

    ※肥満細胞腫の注意点※
    しこりを強く触ると、肥満細胞からヒスタミンという物質が放出され、しこりが赤く腫れたり一時的に大きく見えることがあります。まれに全身に影響して、ぐったりしたりショック状態になることもあります(これを「ダリエ徴候」と呼びます)。そのため、しこりを必要以上に刺激しないように注意しましょう。

     

    【診断】 

    肥満細胞腫かどうかを調べるためには、次のような検査を行います。

    ・細胞診
    しこりに細い針を刺して細胞を採り、顕微鏡で観察します。肥満細胞は特徴的な顆粒を持っているので、診断の手がかりになります。

     

    ・組織検査(生検)
    より詳しく調べる場合には、しこりの一部や全体を外科的に切り取り、病理検査に出します。腫瘍の「グレード(悪性度)」を調べるために必要です。

     

    ・血液検査・画像検査(X線・超音波検査など)
    腫瘍が転移していないか、リンパ節や内臓に広がっていないかを確認します。

    特に、肥満細胞腫は肝臓や脾臓に転移しやすいとされているので、注意が必要となります。

     

     

    【治療】

    肥満細胞腫の治療は、主に「外科手術」「薬物療法」に分けられます。

     

    ・外科手術 ⇨根治を目指せる!
    肥満細胞腫は周囲に広がることがあるため、腫瘍そのものだけでなく健康そうに見える皮膚も一緒に切除するのが理想です。もし転移がなく、皮膚にひとつだけの発生であれば、外科手術はとても効果的な治療になります。

     

    ・抗がん剤治療
    切除が難しい場合や転移がある場合には、抗がん剤を使うことがあります。近年では分子標的薬(特定の腫瘍細胞を狙い撃ちする薬)も使われるようになってきています。

     

    ・放射線治療
    一部の施設では放射線を使った治療が行われることもあります。

     

    ・補助療法
    腫瘍から放出されるヒスタミンによる副作用(胃潰瘍や嘔吐)を防ぐために、抗ヒスタミン薬や胃薬を併用することもあります。

     

     

    【予後について】

    肥満細胞腫は「良性のように振る舞うもの」から「非常に悪性で転移しやすいもの」まで幅が広い腫瘍です。

     

    ・低グレード(悪性度が低い):手術でしっかり切除すれば再発のリスクは比較的低く、良好な経過が期待できます。

    ・高グレード(悪性度が高い):転移や再発が起こりやすく、追加の治療や継続的な管理が必要になります。

     

    犬種によって発生しやすさに違いがあり、ボクサー、パグ、ラブラドールなどでは比較的多いことが知られています。猫では皮膚にできるタイプのほか、脾臓や消化管にできることもあります。

     

    グレード分類(Kiupel) ⇨病理組織検査で判断します!

    Kiupel分類(病理学的悪性度)

     

     

    【飼い主さんにできること】

    肥満細胞腫は「早期発見・早期治療」が何よりも大切です。

    次のことを意識してみてください。

    ・毎日スキンシップをしながら体を触り、しこりがないかチェックする。

    ・しこりを見つけたら「様子を見る」のではなく、早めに動物病院で検査してもらう。

    ・治療後も定期的な健診を受け、再発や転移がないか確認する。

     

    「ただのイボだと思ったら肥満細胞腫だった」というケースは少なくありません。飼い主さんが早く気づいてあげることで、その後の治療成績が大きく変わります。

     

     

    【まとめ】

    肥満細胞腫は犬や猫でよく見られる皮膚の腫瘍で、見た目だけでは良性か悪性かを判断できません。診断には細胞診や組織検査が必要で、治療は外科手術が基本となります。悪性度によって予後は大きく異なりますが、早期に発見し適切に治療することで、良好な生活を送れる可能性は十分にあります。

    「ちょっとしたしこりだから大丈夫」と油断せず、気になるものを見つけたら早めに動物病院にご相談ください。

  • 多中心型リンパ腫

    犬や猫の病気の中でも「リンパ腫(りんぱしゅ)」は比較的よく見られる腫瘍(がん)の一つです。その中でも最も多いのが「多中心型リンパ腫」と呼ばれるタイプです。

    今回は、多中心型リンパ腫とはどんな病気なのか、症状や診断、治療方法、予後について飼い主さまに分かりやすく解説いたします。

     

    【多中心型リンパ腫とは?】

    リンパ腫は血液の中の「リンパ球」という免疫を担う細胞が腫瘍化することで起こる病気です。リンパ球は体のあちこちにある「リンパ節」に集まっています。

     

    多中心型リンパ腫は、その名の通り「全身のリンパ節に広がるタイプ」のリンパ腫です。特に犬で多く、猫でも見られることがあります。リンパ節は首やわきの下、股のつけ根、体の奥(胸やお腹の中)など全身に存在するため、多中心型リンパ腫は全身性の病気として進行します。

     

     

    【症状

    飼い主さまが最初に気づくことが多いのは「リンパ節の腫れ」です。

    下顎リンパ節(あごの付け根あたり)、浅頚リンパ節(首の付け根あたり)、腋窩リンパ節(前足の付け根あたり)膝下リンパ節(膝の後ろあたり)などを触るとコリコリしたしこりのように大きくなっていることがあります。

     

    その他に見られる症状は以下のようなものです。

    ・元気がなくなる

    ・食欲が落ちる

    ・体重が減ってくる

    ・発熱する

    ・嘔吐や下痢をする

    進行すると、肝臓や脾臓、骨髄などにも広がり、貧血や出血、免疫力低下による感染症などを引き起こすことがあります。

     

     

    【診断】

    リンパ腫を疑った場合、まずは体表のリンパ節を触診で確認します。

     

    その後、確定診断のためには以下のような検査を行います。

    ・細胞診:細い針でリンパ節から細胞を採取し、顕微鏡で確認します。短時間で結果が出ることが多く、第一選択となります。

    ・組織生検:より詳しい診断やリンパ腫の型や悪性度を知るために行います。

    ・血液検査・レントゲン・超音波検査:腫瘍の広がりや全身状態を評価します。

    ・骨髄検査:進行度を調べる場合に行われることもあります。

    これらの検査により「病期(ステージ)」を判定し、治療方針を決めていきます。

     

    【ステージ分類】

     

     

    【治療】

    多中心型リンパ腫の治療の基本は 抗がん剤(化学療法) です。

    一般的には、単剤治療より多剤併用プロトコル(複数の抗がん剤を組み合わせた治療)の方が、治療成績がいいとされています。

    ・多剤併用プロトコル:
    複数の種類の抗がん剤を組み合わせて使用する方法です。犬のリンパ腫では「CHOP療法」と呼ばれるプロトコルがよく使われ、最も効果が期待できます。

     

     

    ・単剤療法・ステロイド療法
    複数の抗がん剤を使うのが難しい場合、1種類の薬やステロイド(プレドニゾロン)だけを使用することもあります。ただし効果は限定的で、長期的な延命は難しい傾向があります。

     

    治療の目的は「根治」よりも寛解(かんかい)=腫瘍の活動を抑えて症状をなくすこと」です。

    寛解が得られると生活の質(QOL)が大きく改善され、元気や食欲が戻ります。

     

     

    【副作用について】

    「抗がん剤」と聞くと強い副作用を心配される飼い主さまも多いと思います。

    人のがん治療に比べて、犬や猫で使う抗がん剤は 生活の質を重視 して投与量を調整するため、副作用は比較的軽く抑えられます。

    よく見られる副作用は以下のようなものです。

    ・骨髄抑制:一時的な白血球減少(免疫力低下)など

    ・消化器症状:食欲不振、嘔吐・下痢など

    ・脱毛

    これらは投薬のスケジュールやお薬でコントロールできることが多いです。

     

     

    【予後】

    犬の多中心型リンパ腫の場合、CHOP療法などの多剤併用プロトコルを用いると、約8割の子で一時的な寛解が得られるとされています。

    ・平均的な生存期間は 約1年 前後(一部の子では 2年以上 生きることもあります)

    ・治療を行わない場合、数週間~数か月で症状が進行することが多いです。

    猫のリンパ腫はタイプによって反応が異なりますが、多中心型は犬より治療成績がやや劣る傾向にあります。

     

     

    【まとめ】

    多中心型リンパ腫は犬や猫でよく見られる腫瘍で、全身のリンパ節に広がる病気です。早期に発見して治療を開始することで、生活の質を保ちながら長く一緒に過ごせる可能性が高まります。

     

    「首やあごの下にしこりがある」「最近元気がない、体重が減ってきた」など気になる症状があれば、早めに動物病院にご相談ください。

     

     

    【症例】

    ・14歳、チワワ

    主訴;体表リンパ節が腫れている

    治療:多剤併用プロトコル(UW25)

    経過:抗がん剤治療にて寛解した。その後も4年以上の生存を認めた。